アウトソーシング戦略 - 思想編

1. 本来の外注とは何か?

外注(アウトソーシング)とは、本来、社外の専門家や業者に対して業務の遂行や成果物の納品を依頼する行為であり、法的には「請負契約」または「委任契約」として定義されます。


  • 請負契約:成果物の完成に対して報酬を支払う契約(民法第632条)

  • 委任契約:一定の業務遂行に対して報酬を支払う契約(民法第643条)


いずれの契約形態も、原則として**「指揮命令関係が存在しない」**ことが前提であり、依頼者は業務の“目的”や“成果”を定義するだけで、その進め方や手段には介入しません。

この定義に基づく外注は、本来、以下のような特徴を備えています:


  • 高い専門性を持った外部人材への依頼

  • 教育不要・即戦力前提での業務遂行

  • 成果物やKPIが明文化・合意された状態での業務提供


つまり、外注とは「人を雇う」ことではなく、「目的に対する手段を契約する」行為であり、労働力を切り出すのではなく、価値創出の一部を外部に設計委託する行為です。



外注に向いている職種の例

  • デザイナー(バナー制作・紙面デザインなど)
  • ライター・編集者(記事・コピー制作など)
  • カメラマン/映像制作者
  • システム開発/プログラマー
  • 通訳・翻訳・校正者
  • 士業(税理士・社労士・弁護士など)
  • 外部コンサルタント


いずれも、「依頼内容が定義できる」「成果物の合意が可能」「業務プロセスを自律的に完結できる」ことが条件となります。

一方で、社内業務にありがちな「社内文脈で成り立つ業務」「成果があいまいな業務」「複数業務が混在した仕事」は、本来の外注定義から外れるため、切り出し時に設計し直す必要があります。

 

 

 

2. 現代の外注化に見られる変質と課題

近年の外注化は、かつての「専門業務の外部委託」という原型から逸脱し、“リモート人材”や“低コストな代替労働力”としての扱いに変質しています。

とくにクラウドソーシングの普及により、「発注さえすれば誰かがやってくれる」「人件費を安く外に出す手段」としての外注が一般化しました。

この変質により、以下のような構造的課題が発生しています:



  • 成果物ではなく稼働時間を買ってしまう
     → 結果、「なんとなく忙しい人を雇う」ことになり、コスト対効果が不明確に

  • 裁量なき“指示待ち外注”の横行
     → 本来は手段の選定や工夫も含めて委託すべき業務が、マニュアル頼りの反復作業に固定され、価値が出にくい

  • 発注者側の業務設計力不足が露呈
     → 指示が曖昧なまま投げて失敗し、「外注はダメ」と結論づける例が非常に多い

  • “安さ”だけで選ぶ文化が強まる
     → 安いからと依頼し、トラブルや品質低下を繰り返し、「外注は信用できない」となってしまう


これらは、外注化そのものが悪いのではなく、「外注とは何か」「どう設計するべきか」という認識が不足したまま実行されていることが原因です。


本来の外注は、構造的な余力を生み出す**“再設計の手段”であるべきなのに、
現代の一部では、“安く使える都合の良い人材”**という誤った期待のもとで利用されてしまっています。

このような状況を是正するには、外注を「誰かにやらせること」ではなく、
組織として“価値の設計を委託する”という視座に戻す必要があります。

 

 

 

3. なぜ外注化が必要か?

外注化の必要性は、単なる「人が足りない」や「コストを下げたい」という表層的な理由にとどまりません。
本質的には、**組織の中核人材(社員)を、最大限に価値を発揮できる場所に集中させるための“構造的手段”**です。

以下の3点が、外注化が必要な本質的理由です:


(1)限られた時間と人的リソースの最適活用

  • 組織の資源は有限であり、特に「人の時間」は最も希少な経営資源

  • 社員が雑務や再現性の高い業務に忙殺されると、本来生むべき価値が毀損される

  • 外注によって業務を切り出すことで、「何に時間を使うべきか」が明確になり、集中が可能になる


(2)コア業務(判断・設計・改善)への集中

  • 社員は、属人的な作業ではなく、「組織の中でしかできない判断」に集中すべき

  • 外注化は、社員=仕組み設計者/意思決定者という立場を守るための前提条件

  • 手を動かすのではなく、“全体最適”を描ける人材に進化するための構造的余白が生まれる


(3)スピーディーかつ安定的な労働リソースの確保

  • 雇用には時間もコストもかかるが、外注なら「すぐに」「必要な分だけ」確保できる

  • 特にプロフェッショナル領域(動画編集、EC運用、デザインなど)では、社員よりも即戦力で価値が出る場合が多い

  • 組織の柔軟性・変化対応力を保つためには、**外注という“変動的な筋肉”**が不可欠

 

 

4. コア業務と外注業務の違い

外注化の成功可否を分ける最大のポイントは、「何を外注するべきか?」の判断にあります。 この判断は、感覚や慣習ではなく、業務の本質的な性質と経営的な目的から明確に切り分ける必要があります。

そのために重要なのが、「コア業務」と「外注業務」の定義の違いです。



■ コア業務とは

コア業務とは、その組織にとって中長期的な競争優位性やブランド価値、持続可能性を左右する中核的な業務のことです。 単に「難しい」「量が多い」ではなく、以下のような特徴を持ちます:

  • 判断や意思決定が伴い、標準化が困難

  • 顧客や社会との関係性に直接影響を与える

  • 組織の強みや戦略と強く結びついている

  • 改善や設計によって再現性を高めていく対象


例:

  • 商品・サービスの設計と改善

  • 顧客体験の設計や応対ルールの策定

  • 組織文化の維持・育成

  • 戦略立案、チームマネジメント

これらは**外注化できないというより、“社内に知恵を残すべき領域”**であり、社員の中でも限られた人材が担うべき役割です。



■ 外注業務とは

外注業務とは、コア業務以外の業務であり、再現性が高く、明文化・分解・測定が可能な業務です。 本質的には、“人”に属さず“設計”に属する業務であり、以下の特徴を持ちます:

  • 一定の手順で進行でき、成果物が明確

  • 手戻りや判断介入が少ない(またはルール化可能)

  • 他社やフリーランスでも遂行可能なスキルセットで完結

  • コスト・納期・品質の3軸で評価・管理できる


例:

  • SNS画像の制作や入稿作業

  • 商品登録・データ整備

  • 問い合わせ返信の定型文処理

  • 月次レポート作成

外注に適した業務は、**「人に教えずとも、仕様書で伝えられる業務」**であると定義できます。 つまり、“誰がやるか”ではなく、“どう設計されているか”で外注可能性が決まります。

 

 

■ 線引きの基準:判断の3軸

 

このように明確に線を引くことで、「本来社員がやるべき仕事」と「外注に任せるべき仕事」を整理でき、 社員のリソースが最も効果的に使われる組織が実現します。

外注とは、**“任せること”ではなく“切り分けて設計すること”**です。 この思想がないまま属人的に分担していると、外注は失敗し、社員も疲弊していきます。

 

 

 

5. 外注化を阻む誤解と心理的バイアス

外注化が進まない、あるいは外注に失敗する組織に共通して見られるのは、「外注に対する根本的な誤解」と、それに付随する心理的バイアスです。

これらは合理的な判断の妨げとなり、社員の時間を圧迫し、組織の成長を阻害します。以下に典型的なものを列挙し、それぞれの構造的な誤認を明らかにします。


■ 誤解1:「外注はコストが高い」

  • 多くの人が、外注費用=“目に見える支出”である一方で、社員の稼働コストを“給与”だけで見積もる傾向にあります。

  • 実際には、社員1人にかかる実質コスト(教育、社保、家賃、ツール、管理工数など)を含めると、外注の方が安くなるケースは多い

外注は「高い」のではなく「見えている」だけ。社員は「安い」のではなく「見えていない」だけ。


■ 誤解2:「社員の方が信頼できる/管理しやすい」

  • 社員だから安心、外注だから不安というのは“感情”であり、構造的な評価ではありません

  • 外注でも設計さえ明確であれば、高品質・短納期で安定稼働します。

  • むしろ社員の方が「今忙しい」「後でやる」と業務が滞るケースも多く、属人リスクが高いことも。


■ 誤解3:「自分でやったほうが早い」

  • 短期的にはその通りでも、長期的には“その人しかできない構造”を作ってしまうため、大きな機会損失。

  • 「やった方が早い」は、“設計を放棄している”ことの言い換えであり、組織の未来を奪う行動でもある。


■ 誤解4:「うちの仕事は外に出せない/特殊だ」

  • 特殊という言葉の大半は、“定義できていないだけ”ということが多い。

  • 業務が再現性をもって記述できれば、特殊性の大半は解消できる。

  • 「自分にしかできない」は、裏を返せば「誰にも教えられるように設計していない」に等しい。


■ 誤解5:「人を雇った方が安定する」

  • 雇用は確かに継続性があるように見えるが、固定費化するリスクと、雇用維持の硬直性をもたらす。

  • 一方、外注は「必要なときに、必要なだけ」という柔軟性を持つ。

  • 安定を求めて採用しすぎた結果、身動きが取れなくなる組織は非常に多い。


これらの誤解を解消するために必要なのは、目に見えるコスト・成果・稼働だけでなく、構造としての合理性を見る視点です。

社員が自分の時間をどう使い、組織として何を“社内に残し”、何を“外に出す”のか。 その判断に必要なのは、「慣れ」ではなく、「設計者の視座」です。

 

 

 

6. 採用=労働資源の仕入れという構造的理解

企業における「採用」は、単に人を雇う行為ではなく、労働力という経営資源を調達する戦略的な仕入れ活動であると捉えるべきです。

この視点がないまま採用を行うと、「人が足りないから雇う」「忙しいから増やす」といった短絡的な判断が常態化し、結果として非効率な人件費構造や、活かされない人材が組織に溜まっていく構造が生まれます。


■ 業務を遂行するには“労働力”というリソースが必要

  • 業務=価値を生み出すプロセス

  • それを支えるのが「労働力(ヒューマンリソース)」
    → 物理的には時間・スキル・注意力・判断力などの集合


■ 採用とは「労働リソースの仕入れ」である

  • 企業の立場から見れば、人的リソースの調達手段

  • 物的リソースの仕入れ(原料・機材)と同様、
     →「コスト/性能/供給安定性」を見て判断されるべき

  • つまり、ヒトの採用=時間×能力の調達行為



■ 採用は“価値ある労働”の調達である

  • 採用とは、「時間」や「手」ではなく、**“成果を生み出す能力と再現性”**の調達である

  • それは「何を期待するのか」「どこまで再現性を求めるか」によって、外注との比較検討が可能になる


■ 社員採用には“隠れコスト”が多く潜んでいる

  • 給与の他に、社会保険・福利厚生・教育・オフィスインフラ・管理コストなどが積み重なる

  • 社員一人の実質コストは額面の1.5〜2倍に及ぶケースもある

「社員の方が安い」という認識は、コストの“全体像”を把握していないことによる錯覚です。構造として見るなら、社員こそが高コストな“固定資産”である。

 

 

■ 仕入れた労働力は、効率よく使われて初めて意味を持つ

  • 「人を雇って満足する」のではなく、「雇った人が再現性ある成果を出せているか」が重要

  • 社員が“手を動かす存在”として扱われている限り、組織の生産性は向上しない

  • 外注との違いは、裁量と目的を“内製化するか否か”の問題にすぎない


採用とは、リソースの投入であり、投資判断である。
経営者・マネージャーが考えるべきは、「この業務にこの人をあてる理由」「この人を社内に残す意味」であり、 感情や慣習ではなく、構造的・合理的な判断に基づいた“仕入れ”が求められます。

その視座に立つことで、初めて外注か採用か、という判断が経営の文脈に乗るのです。

 

 

 

7. 社員は“第二領域”に集中させるべきである

社員の最大の価値は、“今”の仕事をこなすことではなく、“未来”をつくるために時間を使えることです。

『7つの習慣』でいうところの「第Ⅱ領域(重要だが緊急でない活動)」にこそ、社員が注力すべき理由があります。 なぜなら、仕組みの改善・学習・設計・関係構築といったこの領域こそが、組織の持続可能性を左右するからです。

■ 忙しい社員は構造の失敗である

  • 「忙しい」という状態は、業務が設計されておらず、最適配置ができていないサイン

  • 外注できる業務が内製化されすぎている/属人化している

  • 社員の“時間単価”が最も高いという前提に立てば、社員の時間は最も戦略的に使うべきリソースである


■ 第二領域に集中できる社員の状態

  • 手を動かすのではなく、構造を設計する

  • 問題を処理するのではなく、問題が起きないように仕組み化する

  • 繰り返しを回すのではなく、繰り返さずに済むように改善する

  • 他人に任せるのではなく、任せられる構造を生み出す

「暇」な社員とは、価値がないのではなく、価値創出の準備が整っている状態である。


■ 組織として第二領域をどうつくるか?

  • 外注によって再現性の高い業務を排出する

  • 自動化・ツール導入によって繰り返しを排除する

  • 明文化・マニュアル化で委譲可能な構造を整備する

  • 上司が「忙しくないこと」に罪悪感を持たせない文化をつくる


社員の時間を“未来”のために使えるかどうかは、その組織が**「進化できる構造」を持っているかどうか**の試金石です。 社員が“忙しさ”に飲み込まれている限り、第二領域は永遠に手つかずのまま。 外注は、その構造転換の第一歩となる手段なのです。

 

 

 

8. 戦略的「暇」こそが組織を育てる

「暇であること」は、しばしばネガティブに捉えられます。
しかし、経営や組織設計の視点から見れば、戦略的な“暇”こそが最も重要な資源であり、未来への投資に他なりません。


■ 暇とは「手が空いていること」ではなく「裁量を持てること」

  • 本来、暇とは「働いていない」ことではなく「考える余白があること」

  • 判断・設計・学習といった、価値の高い活動には“未予約の時間”が必要

  • 常に詰まったスケジュールでは、人は改善も進化もできない


■ 暇が“戦略的”になる条件

  • 成果が出ており、数値/目的/再現性が担保されている

  • 誰かが苦しんでいることを“構造で解決しようとする視座”がある

  • 組織を良くする問いを自発的に持っている

暇であることを肯定するには、構造・成果・問いの3点が揃っていなければならない。


■ 経営者やマネージャーは暇であるべき

  • 暇なマネージャーは、仕組みが回っている証拠である

  • 忙しい管理職は「現場に埋もれている」だけで、設計や戦略が停滞する

  • 暇な時間で、未来の種を蒔ける人材が組織を進化させる


■ 戦略的「暇」を生む組織設計

  • 任せるために外注化し、構造を整理する

  • 成果物を明文化し、業務から人を切り離す

  • 社員の仕事を「稼働」から「設計」へと移行する


「暇であることを恐れる組織」は、永遠に忙殺され、改善が進まない。 「暇であることを設計する組織」は、構造的に成長できる。

戦略的な暇とは、“今を動かす”から“未来を創る”へのシフトを可能にするための、意図的な余白である。



したがって必要なのは、暇であることを“戦略的”と見なすための枠組み

以下のような構造が必要になります:


■ 1. 生産性の定義があること

  • 単位時間あたりの価値創出(時間密度ではなく成果密度)

  • 稼働=成果 ではなく、設計力/再現性の拡張/再生産性に価値を置くこと


■ 2. 権限・責任・成果のセットが明文化されていること

  • 「暇である」=やるべきことを仕組みで回していることの証明

  • 誰でも測れるKPIやアウトプット定義があるから、暇でも「成果が出ている」とわかる


■ 3. 評価基準の階層ごとのすり合わせ

社員が“暇”であることを怖れてはいけませ。それは怠惰の結果ではなく、「仕組みと裁量が噛み合った状態」であり、未来をつくる余白だからです。

暇を許容できる組織は、「成果で語る文化」と「設計された権限」がある証拠です。

 

 

 

9. 外注の“タイプ別分類”

外注化を進める際には、単に「任せられるかどうか」だけでなく、“どのタイプの外注なのか”を見極めて使い分けることが重要です。

外注にも目的・関係性・責任範囲の違いによっていくつかのタイプがあります。 それぞれの特徴を把握し、最適な業務を最適な外注先に割り当てる設計が、外注活用の成否を大きく左右します。


■ 外注のタイプ分類表

 

外注化とは、単に「人に任せる」のではなく、“成果の構造を外部にどう設計・分配するか”というマネジメントの実践行為です。

その設計には、相手の得意領域と業務の再現性、期待する成果の明確さが求められます。 「安く使える人」ではなく、「設計通りに成果を返してくれる相手」として、外注先を“資源”として捉える視座を持つことが肝要です。

 

 

◼️具体ステップ編|外注化の実行手順と思考の型