アウトソーシング戦略 - 具体ステップ編

1. 業務の棚卸し

外注戦略の第一歩は、「業務の可視化」です。 何を外注するかを決める以前に、まず自社でどのような業務が行われているのかを正確に把握することが不可欠です。


■ なぜ棚卸しが必要なのか?

  • 業務が属人化している場合、「何を誰がやっているか」が把握できず、切り出す判断ができない

  • 実は誰も必要としていない業務や、別の方法で解決できる業務が紛れ込んでいる可能性も高い

  • 外注化は、単なる“作業の移譲”ではなく、“構造の整理と再設計”である



■ 棚卸しの進め方(基本ステップとツール提案)

  1. 全業務を書き出す(人別/チーム別)

    • 「今やっていること」をすべて記録(定型・非定型問わず)

  2. 業務を粒度ごとに分解する

    • 「この業務は3つのタスクに分けられる」といった単位に分解

  3. 所要時間・頻度・成果物を記載する

    • 「毎日30分かかる/週1回/納品物あり」など、可視化

  4. 主観的な負荷や難易度もメモする

    • 「これが面倒」「他人に渡せない理由」などの心理的要素も棚卸し対象


棚卸しは単なる整理作業ではなく、外注可能な構造に再編するための出発点です。




■ 推奨ツールと実行手順

業務棚卸しの作業を円滑に進めるためには、ツールの選定が重要です。 以下に2つの実践的な方法を紹介します。



方法①:Googleカレンダーを使って記録する(初学者向け)

  • 1週間、すべての予定を15分単位で記録する

  • 予定として書くのではなく、実際にやったことをリアルタイムで記録していく

  • 業務名/所要時間/場所や相手/感情メモなども含めると有効

  • 週末にエクスポートや手作業で抜き出せば、自然と実働タスクの全体像が浮かび上がる



方法②:Asanaを使って業務リスト化する(構造化志向者向け)

  • 「業務棚卸し」用のプロジェクトを作成し、すべての業務をタスク化

  • 担当者・頻度・所要時間・成果物・依頼可能性などをタグ・カスタムフィールドで整理

  • そのまま委譲管理や外注管理リストに転用できるという利点がある

  • ただし、操作と設計に一定の習熟が必要なため、最初の導入には補助が必要な場合も



どちらの方法を用いても、目的は「本人も気づいていない業務の発掘」と「再現性ある単位への分解」です。 特にGoogleカレンダー方式は、日報やToDoでは漏れてしまう“リアルな時間の使い方”を可視化できるため、非常に効果的です。 この段階で情報が曖昧なままだと、次の「業務仕分け」や「外注判断」も精度を欠き、結果的に失敗しやすくなります。

「業務を見える化する」ことは、外注戦略における最も重要な準備フェーズなのです。

 

 

 

2. 重要度のマトリクスで業務を棚卸しする

業務の棚卸しを行った後は、それらを「再現性」と「経営インパクト(重要度)」という2軸で分類し、外注すべき業務と社員が担うべき業務を視覚的に仕分けます。このマトリクスがなければ、“自分でやった方が早い病”も、“忙しさを誇る病”も治らない。組織が再現性と成果で動くためには、業務の価値と言語化可能性を冷静に評価する視座が必要です。


■ 業務仕分けマトリクス|定義と活用フレーム

【定義】

業務仕分けマトリクスとは、すべての業務を「再現性 × 経営インパクト」の2軸で評価し、
適切なリソース配置(社員・外注・自動化)を構造的に決定するための思考ツールである。


【目的】

    • 業務を「誰がやるべきか」「どうやってやるべきか」を感覚や慣習でなく、構造で決めること

    • 社員リソースの最適活用

    • 外注・自動化の合理的判断の基盤づくり

    • 属人的な「忙しさ」や「手放せない業務」からの脱却


【2軸の解説】

 

【4象限の分類】

このマトリクスを活用することで、単なる業務量の削減ではなく、社員の“時間の質”を高める戦略的な業務再設計が可能になります。

 

 

 

 

3. 外注化の優先順位設計(まずは簡単な業務から始める)

外注化においては、「何から手をつけるか」という優先順位が極めて重要です。 多くの企業が最初に難易度の高い業務に着手し、失敗・不信感を抱いて外注全体を諦めてしまうのは典型的なパターンです。

まずは、簡単に依頼できる・成果が見えやすい・リスクが低い業務から始めるのが鉄則です。



■ なぜ簡単な業務から始めるのか?

  1. 成功体験が得やすい

    • 小さな成功でも「外注は回る」という実感が得られることで、文化として定着しやすくなる

  2. 外注依頼の“筋トレ”になる

    • 指示の出し方、成果物定義、納期管理など、発注側のスキルが安全に育つ

  3. 業務設計力が鍛えられる

    • 業務を明文化し、依頼に耐えうる構造に変換する練習になる

  4. 失敗してもリスクが小さい

    • 万一うまくいかなくても、損失が少なく、社内でも再対応可能

  5. 委譲や自動化への分岐点になる

    • 外注した結果、別の外注先や自動化の方が適していることに気づける

 

 

■ スターター業務の選定基準

  • 再現性が高い(手順が明確/成果が決まっている)

  • 社内にとって重要度が低め(失敗しても致命的でない)

  • 実施頻度が高い or 手間がかかる(削減効果が明確)

  • 納品形式が具体的(ファイル提出/件数/時間ベースなど)



■ 例:はじめての外注候補

  • SNS画像のリサイズと投稿代行

  • 定型アンケートの集計とレポート化

  • ECサイトの商品登録(決まったフォーマットあり)

  • イベント資料の体裁整え/文字校正



「まずは簡単に外に出す」ことで、外注文化の土壌が育ち、 徐々に複雑で価値の高い業務へと移行していく準備が整います。

外注化とは、構造的に“渡せる状態”をつくるプロセスであり、最初の一歩は、渡しやすい仕事から始めることです。

 

 

 

よくある外注失敗パターン|“外注のせい”にして終わる構造

外注化がうまくいかない原因の多くは、外注先の質やスキルではなく、発注側の準備不足・構造設計の甘さにあります。

ここでは、外注に失敗する典型的な構造と、その背後にある組織的要因を明らかにします。



■ 失敗の構造パターン

  1. 業務の中身が曖昧なまま依頼する

    • 複数の業務が混在(例:資料作成+調査+送付対応など)

    • 成果物が定義されていない(例:「いい感じに仕上げてください」)

    • 納期や品質基準が明文化されていない

  2. 業務が標準化・明文化されていない

    • 社内では“なんとなくできている”作業をそのまま外に渡す

    • 「見ればわかるでしょ」で指示を済ませてしまう

  3. フィードバックや確認の仕組みがない

    • 初回の成果物が期待とズレた時に適切な修正依頼ができない

    • なぜズレたのかの振り返りがされないまま契約を終える

  4. 問題の責任を外注先に帰属させる

    • 「やっぱり外注は使えない」と結論づけ、根本原因の分析を放棄

    • 実際には指示設計・期待値調整・レビュー設計の不備であることが多い

  5. 再び内製化し、“やっぱり自分でやった方が早い”に回帰する

    • 社員が忙殺される構造に戻り、第二領域が育たない

    • 外注=失敗という固定観念が組織文化に残る


■ この構造が危険な理由

  • 業務設計の問題が放置されるため、何度でも同じ失敗を繰り返す

  • 外注の失敗によって、“忙しさを正当化する社員”が評価される逆転現象が起こる

  • 第二領域を確保するという本来の目的が損なわれ、成長しない組織構造が固定化される


外注化は“依頼する”行為ではなく、“任せられる構造を設計する”行為である。

失敗のほとんどは、構造の欠如から起きており、再設計によって回避可能です。

外注がうまくいかなかったときこそ、自社の業務の「言語化力」「設計力」「期待値調整力」が問われていると捉えるべきなのです。

 

 

 

 

おわりに(エピローグ)

外注化とは、業務を手放すことではなく、組織を進化させる構造的行為です。社員の時間は最も高価な経営資源であり、それをいかに価値の高い領域に再配分できるかが、組織の持続的な成長を左右します。

「うまく任せられない」「うちの業務は特殊だ」「自分でやった方が早い」 ──そういった言葉の裏には、構造設計の不在と、任せられる土壌の未整備が潜んでいます。

このドキュメントを通じて示したのは、属人と手作業に依存した日々から抜け出し、仕組みと視座によって成長を加速させるための、戦略的外注の在り方です。

実践は、常に“今ここから”始められます。まずは今日、あなたのカレンダーやタスク一覧から「自分でやらなくてもいい仕事」を一つ、見つけてみてください。

外注とは、手放すことではなく、進化するための設計です。

 

 

 

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