デザイン依頼の仕方
VCM - Visual Consensus Model
言語の曖昧さから脱却し、視覚で合意をとるデザインフレームワーク
1. はじめに:なぜ今、VCMなのか
制作現場でよく聞かれる「おしゃれにしてください」「もっと良い感じで」――。
このような曖昧な依頼表現は、誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
しかし、こうした表現は、受け手によって解釈が異なるため、成果物のズレや手戻り、無駄なコミュニケーションコストを生み出します。
また、評価軸も曖昧になり、制作側・依頼側ともにストレスを抱えがちです。
こうした課題を根本から見直し、誰にとっても再現性のあるクリエイティブプロセスを実現するために設計されたのが、
**VCM=Visual Consensus Model(視覚的合意形成モデル)**です。
2. 問題の本質:なぜズレは起こるのか
制作現場の「なんか違う問題」の多くは、以下のような要因に起因しています:
-
言語表現の曖昧さ:同じ「おしゃれ」という言葉でも、人によって指すビジュアルは異なる
-
デザイン構成要素の理解不足:色・書体・余白・構成など、デザインの基礎要素が共有されていない
-
役割ごとの責任レベルが不明瞭:誰がどこまで考えるべきか、精度の期待値が不一致
結果として、完成物が意図通りにならず、手戻りや品質低下を引き起こします。
3. よくある“禁句”とそのリスク
以下は、依頼時やフィードバック時によく使われるNGワードの代表例です:
-
おしゃれにしてください
-
いい感じで
-
なんとなくダサい
-
もう少し高級感を出して
-
もっと女性っぽく
-
若者向けにして
-
スタイリッシュに
-
インパクトが欲しい
-
ちょっと弱い気がする
-
かっこよくして
-
もっとかわいく
-
それっぽく
-
ちょっと違う
-
なんかイメージと違う
-
もっと映える感じで
-
昭和っぽい/今風じゃない
-
もっと抜け感を出して
-
世界観を大事にして
-
センスよく
-
こなれた感じに
-
雰囲気で伝わるでしょ?
これらの表現の問題は、解釈が人によって大きく異なることにあります。
つまり、指示になっていないのです。結果として、**「ズレた納品物」と「不満なクライアント」**を生むことになります。
4. 解決策の核:抽象から具体への“段階設計”
VCMでは、デザイン表現を以下の4つのレベルに分けて整理しています:

このように役割と精度の設計を明確化することで、制作プロセスの誤差を最小限に抑えることができます。
5. VCMとは何か
**VCM(Visual Consensus Model)**は、
「感覚」や「センス」に依存せず、視覚で合意を形成するためのフレームワークです。
キーメッセージは、
Design Without Assumptions(思い込みなく設計する)
VCMは、以下を明確にすることで“誰が作ってもブレない”環境を実現します:
-
カラー設計(メイン/キー/ベースカラー、カラーコード指定)
-
フォント設計(書体、サイズ、行間のルール)
-
ビジュアルトーン(写真・イラストの質感・雰囲気)
-
レイアウトの構成基準(グリッドや余白)
-
禁止事項(使わない色、避けるトーンなど)
デザインを構成する要素
問題の2番目であるデザインの構成要素。デザインを構成する要素の理解が依頼側に不足しているということです。もしくは、デザイナー側にもこれらの認識が甘い場合があります。デザインは10の要素から成り立っています。これらを明確にする必要があります。
-
レイアウト(Layout)
-
タイポグラフィ(Typography)
-
カラー(Color)
-
ビジュアル(Visuals / Imagery)
-
形(Form / Shape)
-
余白(Whitespace / Negative Space)
-
階層構造(Hierarchy)
-
一貫性(Consistency)
-
リズムとバランス(Rhythm & Balance)
-
コンテクスト適合性(Contextual Relevance)
6. 実際の運用:VCMの活用例
例:商品ページの新規制作時
-
依頼者が方向性を言語化(レベル2)
「明るく清潔感のある印象で、女性向けのナチュラルテイスト」 -
ディレクターが具体化(レベル3)
- メインカラー:#F5F5F5
- キーカラー:#D9777F
- フォント:Noto Sans JP、タイトル24pt、本文14pt
- 参考ビジュアルをムードボードに集約 -
デザイナーが視覚化(レベル4)
→ 上記を元にレイアウトや画像、パーツを反映した画面を制作
7. VCM導入のメリット
-
手戻り・修正回数の削減
-
制作物の品質と一貫性の向上
-
誰でも一定のクオリティでアウトプットできる仕組み化
-
依頼者・制作者間の信頼関係の構築
-
ブランド資産・ナレッジとしての蓄積
デザインは“センス”ではなく“設計”です。
感覚ではなく、共有された構造で動く。VCMは、感覚や感性の違いに頼らず、視覚情報で合意を取り、誰でも再現できるデザイン文化をつくる仕組みです。
依頼テンプレートの運用方法
テンプレートをコピーして使用してください。テンプレートコピー後適時編集して最適なもので依頼してください。
運用のスッテップは下記の4ステップとなります。
-
ニーズとベネフィットを明確にする
-
セールスコピーを書く
-
デザインの要件を具体化する
-
デザインイメージを視覚情報で確認する
Step 1.ニーズとベネフィットを明確にする
ターゲットや目的の共有はマーケター、つまり依頼者側の仕事となります。どこで使用するデザインなのかはもちろん、ニーズとベネフィットを明確にしてください。
ニーズには、顕在的ニーズと、潜在的ニーズの二種類があります。両方の方面から深掘りしましょう。
ニーズを分析するには、顧客レビューから分析を行います。
分析方法についてはポジショニング戦略の動画をご覧ください。
ベネフィットは分類すると、合理的ベネフィット、心理的ベネフィット、感覚的ベネフィット、社会的ベネフィット、経済的ベネフィットの5種類があります。イメージの中身を考える前に、ニーズとベネフィットを明確に定義してください。

Step 2. セールスコピーを書く
販売ページなどのデザインで、セールスコピーを作るのはマーケターの仕事です。ニーズとベネフィットを明確にし、製品の性能と、競合の性能を明確にすると、どういった内容をセールする必要があるのかが見えてきます。
キャッチコピー、サブコピー、本文、バレットポイントなどに分割し、必要なセールスコンセプトと、セールスコピーを完成させましょう。これらが完成したらデザインを依頼することができるようになります。
マーケターはワイヤー書いてはいけません。
マーケターに求められることはワイヤーを書くことではなく、訴求する内容と、訴求コンテンツを明確にし、各コンテンツに優先度をつけることです。デザインは引き算です。何かを目立たせるためには、何かを目立たなくする必要があります。優先度の設定が肝です。デザイナーは優先度に応じて、それが適切に伝わる形します。

Step 3. デザインの要件を具体化する
デザインの要件を具体化するのがディレクターの仕事です。「抽象→具体」の翻訳者となるべき役職がディレクターであり、ディレクションです。依頼者が具体的にできないイメージを代弁しつつ、デザイン要素を具体化していきます。ディレクターには「通訳」と「共感」の両スキルが求められます。
また、ディレクターには「翻訳能力+判断軸」が必須です。
デザインリテラシーだけでなく、事業視点とブランド理解も必要で、指示を「誰に」「なぜ」「どう見せたいか」に落とし込めるかが鍵となります。
前提条件のカラーコードやフォントを明確にするためには、テンプレートを使用してください。テンプレート使用すると、前提条件の確認作業が省け、常に同じ水準で、素早く正確に条件確認を行うことができます。これを再現性と言います。

Step 4. デザインイメージを視覚情報で確認する

デザイナーはレベル4の表現レベルで、ムードボードで具体的なイメージを制作して仕様のイメージ合意をおこなっていただきます。
これには設計思想の理解が必要であり、指示を正確に受け取るだけでなく、意味を汲み取り、判断する力が重要です。
表現レベル3を、「仕様」。と捉え、そこに、表現力を乗せる。
論理と感性の融合こそがデザイナーに求められる能力です。
ムードボードの詳細

VCM — Visual Consensus Model
ここまでが、VCMテンプレートの概要です。
依頼側であるマーケター、仲介者であるディレクター、製作者であるデザイナーの両分に分け、4つのステップで説明しました。さらに細かいテンプレートの使用法は別のコンテンツで説明します。大枠のステップである、
2. セールスコピーを書く
3. デザインの要件を具体化する
4. デザインイメージを視覚情報で確認する
をよく理解し、抽象的表現を避け、具体的かつ、視覚的な合意形成を図りましょう。