マネージャー向け思考促進フレーム
―「もっと考えて」と言いたくなったときに読むページ―
■ はじめに:その“つい皮肉”は誰の課題か?
**「もっと考えてくれ」**という言葉ほど、
思考の放棄を促す抽象的命令はありません。
プレイングマネージャーとして忙しい日々。
ようやく上がってきた部下のアウトプットを見て、思わず漏れる「もっと考えてほしい」というひと言。
しかし、それを聞いた部下の表情は冴えないまま。次のアウトプットも、やはり不満足。
──このループ、経験ありませんか?
それは、部下の能力だけの問題ではなく、
「考えるとは何か?」が共通言語になっていないことに原因があります。
✅ 「考える」とは何か?が定義されていない問題
経営者や上司が部下に言う「もっと考えろ」は、
大抵の場合:
-
結果が物足りない
-
自分の期待とズレている
-
主体性がないように見える
…といった“感覚的な不満”の表明にすぎません。
でも、そこに**「考えるとはどういう構造か?」**という定義がなければ、
部下には改善の手がかりが一切ない。
つまり──
具体性のない「考えろ」は、指示ではなく、圧力でしかない。
■ よくある誤解:「考える」は“感覚”ではない
「もっと中身を詰めてくれ」
「もう少し頭使ってほしい」
「なんか浅いんだよね」
これらは“思考の抽象的な不満”であって、具体的な行動の手がかりにはなりません。
部下からすると、「で、どうすればいいんですか?」という状態になります。
ここで必要なのは、“思考”という行為の定義を明確にし、構造として共有することです。
■ 思考の定義:考えるとは何か?
以下は「考える」という行為を4つのステップに分解したモデルです。
【思考の4ステップ】
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問いを立てる
- 何を明らかにしたいのか?
- この課題の「本当の問題」は何か? -
構造を把握する
- 関係する要素は?
- 全体はどう繋がっているか?
- 分解するとどう見えるか? -
選択肢を出し、比較する
- どんな方向性がありうるか?
- それぞれのメリット・デメリットは? -
視座を持って再定義・決定する
- 今の自分たちにとっての最適解は?
- どの軸で判断するか?
このプロセスを通っていなければ、「考えたつもり」になっている可能性があります。
なので、リーダーが本当に言うべきことは:
「“考える”とはどういうことか、共通の構造で捉えよう」
「問いのない会話は、考えていないことと同じ」
「中身がないのではなく、問いが曖昧なのだ」
「もっと中身を」ではなく「何を問い、何を掘るべきかを設計しよう」
となります。
✅ ここで示した「思考の構造共有」によって見えてくること
1. 思考の弱点診断ができる
-
ステップが共有されていれば、
「どこで詰まってるか?」「何が不足してるか?」が見える-
例:問いがない?選択肢が出せない?構造化できてない?
-
2. “考えたつもり”を排除できる
-
「やったけど…」という報告が、
どのプロセスまで踏んだのかで客観的に評価できる。
3. 上司の役割も明確になる
-
「何を明らかにしたいか」は“思考の起点”=問いの源泉
→ 上司がここを曖昧にしていては、部下は絶対に考えられない。
4. 合意形成の可視化
-
「問いの定義」と「目的の共有」が先にあるか?
→ フェーズ0(思考前段階)の合意があるかで、実行フェーズの質が決まる。
■ 上司としての役割:フェーズ0の設計
実は「考える」前段階が最も重要です。
【フェーズ0:思考の起点づくり】
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目的は明確か?
→ なぜこの課題に取り組むのか?どんなゴールを期待しているか? -
問いは共有されているか?
→ 「何を明らかにしたいのか?」が、部下とすり合っているか? -
前提や背景の認識は揃っているか?
→ 認識のズレが、思考のズレになっていないか?
🧱 構造モデル
◉ フェーズ0:思考前段階
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【目的明確化】:なぜそれを考えるのか?
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【問いの設定】:何を明らかにしたいのか?
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【合意の有無】:上司と部下で前提の一致はあるか?
◉ フェーズ1:思考プロセス(4ステップ)
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問いを立てる
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構造を把握する
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選択肢を出す・比較する
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視座を持って再定義する
◉ フェーズ2:可視化とフィードバック
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どこで詰まったか?
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上司側の設計は適切だったか?
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次回に向けて、問いと構造をアップデートする。
■ 伴走のコツ:「問いのガイド」であれ
マネージャーは“答えを言う人”ではなく、“問いを編集する人”になるべきです。
たとえば:
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「その仮説は、何を前提にしてる?」
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「もし制約がなかったら、どうする?」
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「これ、別の部署だったらどう考えるかな?」
このような探究型の問いかけを使って、部下の思考を“深める場”として支援することができます。
■ まとめ:考える力は“共有されたプロセス”で育つ
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「考える」とは、問いを起点にした構造化された行為です。
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抽象的な叱責ではなく、思考プロセスを共通言語にすることが第一歩。
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マネージャーは“問いのナビゲーター”として、部下の思考を伴走する役割です。
「もっと考えて」と言いたくなったら、
ぜひこのフレームに立ち戻って、どこに“詰まり”があるかを一緒に見つけてみてください。